◆ 著者第一句集
夫や子どもとの生活が展開しその日常意識の照り翳りが深まり、それと重なるように句がつくられてゆく。そしてしだいに日常の「生」そのものへの思念を高めてゆく。汎馨子という人は、日常通過型の女性ではない。噛みしめ消化してその起伏を率直に表明することを躊躇わないから、ときには
<梨の頃は梨噛みしめる所信なり」>
などと吐き出すように、すこし戯けてつくることもある。汎の句域はその分ひろがり、意力の充実さえ感じられて、信濃川に近いところで育った汎の感性に浸み込んでいる、越後の野面や水を渡る風の匂いも、初期作品よりはるかにふかぶかと伝わるようになる。金子兜太(序文より)
旱です夜どおし投げている鉄材
仮の世をくしゃみの真杉花粉
不眠都市うらぶれ渡る雷一つ
暴走族冬浪に行き着きし頃
母をさらう父の快哉タニウツギ
紫陽花の脳杳として夫あらず
果てしない宇宙が頭痛茸飯
序文・金子兜太 装丁・君嶋真理子
四六判上製カバー装 190頁
●著者略歴
本名・柳川美恵子。昭和14年10月22日小千谷市生まれ。「花守」「海峡」の後、「海程」初期より入会。上京(昭和38年)以後「海程」一誌に拠り現在に至る。「海程」同人、現代俳句協会会員