◆ 著者第一句集
<立冬や湯気立上る湯気の中>
のような季感横溢の句。
<団欒のただ中にゐて悴める>
のような人間の心の奥底にひそむ孤独感を巧みに描出した句。さらには、
<くらがねの棘やはらかき初なすび>
という対象を凝視した把握の確かな句、などなど。
『立冬』には内容豊かな作品が列立している。鷹羽狩行(帯分より)
立冬、なんと切れ味の鋭い響きの言葉であろうか。雪国秋田の立冬は、やがて来る容赦ない苛酷な自然と対峙する計りがたい緊迫感に支配される。
重光氏は、この季語が好きだ、という。
単身赴任の厳冬下での生活、教育界の要職にあって直面した難問題の数々。そして、人生の立冬ともいうべき古稀を迎えんとするいま、句集『立冬』は、冬よ来い、と凜然と立つ鎌田重光氏の風姿そのものといってよい。小林呼溪(跋文より)
村ぢゆうの男泣かせて雪女
教へ子に呼び止められて社会鍋
鬼灯を鳴らしていまだ嫁がざる
鷺草のみつめられゐて飛び立てず
大いなるわが家の遺産菊根分
手のとどくやうで届かず春の夢
序文/帯文・鷹羽狩行 跋文・小林呼溪
装丁・伊藤鑛治 四六判上製函装 187頁